<第三十九話> 闇中に光る魚影(下)


<段々表情は怪しく>

ひとかき ふたかき バシャバシャバシャ。。 左手が何か硬いものにに触れる 撫で確認すると

さっき目安を付けた岩棚辺りに間違いない 只目線の位置が水面と同じ今は 確信するには

暫しの間が要った 『よし 間違いない此処だ』 岩に両手を掛け岩盤に身を添わせると意外

水中に良きスタンスが隠れていて 其処を足掛かりに岩棚に身を乗り上げた 『せぇぇぇのぉ・・』

ザバァァァァッ・・・ 息つく暇さえなく 必死の形相で泳ぎ寄る後続相棒の左手首を握り 彼が

此方の右手首を握り返し ホールドしたのを期に 痩せた身体を一気に引き抜いた  足元に

滴る冷水は 岩盤を伝い墨を落としたような黒い水中へと帰って行く 余りの冷えに歯茎が

噛み合わずガチガチ言い出し次の行動に進めない 『しっ 痺れるぅ』滅多に弱音など漏らさない

相棒が身を丸く屈め呻いた 体温の上昇を図る彼を横目に 咥えた三間の渓流竿を伸ばし

すっかり水浸しに成った 餌箱から一番太い大きいミミズを摘み手早く縫い掛けにした まてよ?

思い直しもう二本取り出してちょん掛けにすると絡み付き球状に成った  バンドの上を摺り足で

前進 真っ暗な世界は其の侭奥に続いている 足元にはたっぷり湛えてるだろう渓水も 漆黒の

闇に同化 何処が水面か岩なのかさえも まったく判らない 『えええい まだるっこしい。。』

ピュッ! 色彩を失った空間に あても無くミミズボールは飲み込まれて行った  何処までも

飛んでいく? そんな錯覚に無の境地を覚える ・・・・・・・ バッ!バッシャァン!・・・・・・・・

闇の中に雷光が走った 一瞬で消え去った光は目に焼きつき 瞑想中の錯覚などでは無い

其の証拠には グングン竿先が一層暗い奥向け弓なりに引かれる 『おぃおぃなんだ此れは』

キリキリキリ ヒュ〜ン ラインは悲鳴を上げだした この薄気味悪い場所の主? 化け物でも

鍼掛りさせてしまったのか? 腰を低く渾身の腕力で奴の引きに応えた 正体不明の化け物の

突進を止めた 奴は止まった 止めたと言うより止ったのだろう きっと此方の出方を計り隙を

窺っているのだろう  奴の反抗は次の段階に移った ゴンゴンゴン 闇雲に奥に引き込まんと

始めた主は重々しい引きに出た 竿を握る利き手に更に力が入る 幸い仕掛けは先程新品に

替えたばかり 可也の負荷に耐えれるだろう  何度か引かれ引き戻しが有った 勝負に出た

のか奴は 今度は滅茶苦茶に横走り 闇中を縦横無尽突進を続ける ヒュ〜ッ!更にラインの

悲鳴が響き  バシャッ!。。バッシャァァァン。。 其処で跳んだぁ。。  ん?跳んだぁて??

え?え?何?? 奴は闇に向け引き摺りこみを諦めたのか 今度はトンネル入り口方向へと

そぅ先程我々が躊躇してた 駆け上がり向けて一気に走り出す 今度は竿先を奥の闇向けて

寝せ堪えたが 奴の乱暴でパワー溢れる反撃にうろたえる  後方には直ぐ其処に唖然と

立ち尽くす相棒 『戻れぇぇっ』 ハッと気を取り直し 下流向け走り躊躇無く流れに飛び込む

其の瞬間 バッシャァン。。 又も奴は跳んだ 恐ろしい高さまで躍らせた銀ピカ砲弾型の魚体を

ラインの張りを気遣いながら 岩壁を滑り落ち入水 気付いた時は駆け上がりに立っていた

再び奥向け戻りだした奴を 竿のパワーが最大限生かせるポジションを取ると 水中で大きく

口をあけた奴の身体が 寄る 寄る 寄る  『どうする?』 背後で相棒が声を掛ける 魚網

等の気の利いたもの等携行したことも無い 『引き摺り上げる』 そぅ宣告すると 僅かな岸辺に

竿の弾力を利用 自分も一緒に 最後は脚で蹴り上げた ドスドス暴れ捲くる野生を見下ろし

ずぶ濡れの2人は声も失っていた 


                                                  oozeki